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/ロジックモデル

分野別例:ホームレス支援

I. はじめに

本評価ツールでは、「ホームレス支援」を分野として取り上げています。我が国におけるホームレス支援に関する法律には「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」がありますが、この法律ではホームレス及びホームレス支援の目標を次のように定義しています。

<ホームレスの定義(法第2条)>
・ホームレスとは、都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者をいう。

また、ホームレス支援の目標を次のように定義しています。

<ホームレス支援の目標(法第3条)>

1. 自立の意思があるホームレスに対し、安定した雇用の場の確保、職業能力の開発等による就業機会の確保、住宅への入居の支援等による安定した居住の場の確保並びに健康診断、医療の提供等による保健及び医療の確保に関する施策並びに生活に関する相談及び指導を実施することにより、これらの者を自立させること。

2. ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者が多数存在する地域を中心として行われる、これらの者に対する就業の機会の確保、生活に関する相談及び指導の実施その他の生活上の支援により、これらの者がホームレスとなることを防止すること。

3. 前二号に掲げるもののほか、宿泊場所の一時的な提供、日常生活の需要を満たすために必要な物品の支給その他の緊急に行うべき援助、生活保護法による保護の実施、国民への啓発活動等によるホームレスの人権の擁護、地域における生活環境の改善及び安全の確保等により、ホームレスに関する問題の解決を図ること。

このように、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」においては、ホームレスを「現にホームレス状態にある者(安定した居所のない者)」とし、その目標を「雇用の場や居住の場を確保することによるホームレス状態からの脱却」及び「ホームレス状態になることの予防」に定めています。

 これに対して、本評価ツールが対象とする「ホームレス支援」とは、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に位置づけられている支援はもちろん、この法律の範疇にはおさまらない「ホームレス状態から脱却した後の継続的な支援」など、「ホームレスがホームレス状態を脱却し、その後自立した生活を送り続けるために行われる支援全般」を想定しています。

 したがって、支援を受ける対象者は、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法に定義された、現にホームレス状態にある者(及びそのおそれのある者)」に限定せず、「ホームレス状態を脱却した元ホームレス」を含めた、「このような支援を必要とする全ての方々」を想定しています。

II. ロジックモデルをつくる

II.1. 事業の目標と受益者を特定する

本評価ツールでは、対象事業となるホームレス支援の最終的な目標を、支援対象者である「ホームレス(元ホームレスを含む)」が「様々なプログラムを通じて、本人が望む場所での自立した日常生活を送ること」としました。したがって、事業(プログラム)の主な受益者を「ホームレス(元ホームレスを含む)」としました。

また、「ホームレス(元ホームレスを含む)が望む場所での自立した生活を送る」という目標の達成に向けて、地域(地域住民)へのアプローチも必要であると想定されることから、地域(地域住民)も事業(プログラム)の受益者に設定しました。

II.2. アウトカム(成果)のロジックを考える

対象事業(プログラム)の成果・効果を評価するために、まずは、事業(プログラム)の設計図ともいえるロジックモデルを検討し、明確化する必要があります。本評価ツールにおける「ロジックモデル」とは、事業(プログラム)や組織が最終的に目指す変化・効果の実現に向けた道筋を体系的に図示したものです。

本評価ツールでは、対象事業(プログラム)の成果・効果を評価するために、事業(プログラム)の受益者である「ホームレス(元ホームレスを含む)」「地域(地域住民)」について、事業(プログラム)を通じて達成したい成果・効果・目標(総称してアウトカム)をロジックモデルとして整理しました(図表2)。II.2.1以降で、アウトカムについて具体的に説明します。

なお、本評価ツールは対象事業(プログラム)のアウトカムを測定することに主眼が置かれていますが、事業(プログラム)改善のための評価に際しては、図表1に示した①~⑤も併せて評価する必要があることに留意が必要です(これら①~⑤を『プログラム評価階層』といいます)。

図表1 ホームレス支援の評価とプログラム評価階層

評価改装問うべき事項の例
①ニーズ評価・実施している(あるいは作ろうとしている)事業(プログラム)はホームレスの人たちにとって本当に必要な事業・プログラムなのか。
②セオリー評価・実施している(あるいは作ろうとしている)事業(プログラム)は意図した成果・効果の達成に向けて妥当な仕立て(ロジック・モデル)になっているか。
③プロセス評価・事業(プログラム)は当初意図した通りに(②セオリー評価で仕立てたロジック・モデルの通りに)実施されているか。
④アウトカム評価・事業(プログラム)は意図した成果・効果(②セオリー評価で仕立てたロジック・モデルの成果・効果)を達成することができているか
⑤効率性評価・事業(プログラム)に投入された資源(資金・人材・労力など)は適切なものであったか。

(コラム)インパクト・マネジメント・サイクルと評価階層につい

図表2:ホームレス支援分野における一般的なロジックモデル

II.2.1. 直接アウトカム

ホームレス(元ホームレスを含む)に様々な支援を行うことの成果として、まず、ホームレス(元ホームレスを含む)が「住居を確保すること」や「サービス(経済的支援・医療・福祉・就労など)へアクセスすること」「教育・就労の機会を得ること」が想定されます。

例えば、ホームレスの人々が、都市公園や河川、道路などで寝泊りをする姿をみかけることがありますが、いくら夜とは言っても夏場は暑く、冬場であれば命すら落としかねない厳しい寒さがあり、また、時折新聞やテレビのニュース等で報道されますが、ホームレスの人々が暴力行為などの事件に巻き込まれ、大怪我や場合によっては命すら落としかねない危険な状況があると考えられます。このような状況を防ぐためにも、まずは「住居(あるいは、緊急一時宿泊施設など)」を確保することが大切であるといえます(住居の確保)

また、長いホームレス生活(あるいは長くないとしても慣れないホームレス生活)を送るなかで栄養状態も偏り、不衛生な状況のなかに居続けることで健康を損ねる人も多くいらっしゃると思います。仮に身体的には健康であったとしても、精神的には何かの不調や疾患を抱えていることも少なくはないでしょう。あるいは、経済的な問題、生活をしていくうえで必要な能力が欠けているなどの問題もみられることがあるでしょう。このような場合、必要に応じて医療サービスを提供することや経済的支援を行うこと、そして福祉や就労支援等を行うことが必要になると考えられます(サービスへのアクセス)

さらに、ホームレス生活を送る人のなかには「機会があれば働きたい」と考える人もいます(実際に日雇いの仕事などで生計を立てている人々もいらっしゃいます)。若い人であれば、もう一度、大学や専門学校(あるいは高等学校)に通いなおし、勉強をやり直したいという人もいるかもしれません。こういった方々には、「希望する仕事(働き方)での就労」や「学業への復帰」が重要な目標になると考えられます(教育・就労の機会を得る)

一方で、地域の方に目を移すと、ホームレスに対して強い偏見をもっている人々(地域住民)や全く関心をもたない人々(地域住民)がいることも事実です。このような地域社会では、いくらホームレス(元ホームレス)の人々が努力をしても、あるいは支援・サービス機関がホームレス(元ホームレス)を対象とした支援・サービスを展開しても、ホームレス(元ホームレスを含む)の人々の社会復帰、地域生活の実現は困難を要するものになってしまうでしょう。そこで、地域(地域住民)にとっての直接アウトカムとして「ホームレス問題に関する知識や関心の向上」及び「適切な交流の増加」が求められます(地域住民の関心・交流の向上)

したがって、本評価ツールにおいては、ホームレス(元ホームレスを含む)の「住居の確保」及び「サービスへのアクセス」、ホームレス(元ホームレスを含む)が「教育・就労の機会を得る」、そして「地域住民の関心・交流の向上」を直接アウトカムとして設定しました(図表2・3)。

II.2.2. 中間アウトカム

ホームレス(元ホームレスを含む)に様々な支援を行うことの成果として、次に想定されるのが「健康状態の改善」と「学習したことやサービスの維持・定着」そして、「親密な人間関係の形成」です。

例えば、ホームレス(元ホームレスを含む)の人々が安心して寝泊りできる住居を確保し、必要に応じて福祉サービスなどを受けていれば、これまでは栄養の偏った食事、あるいは、そもそも全く食事が摂れない状況によって悪化していた栄養状態が改善し、また、病院での診察や状態に応じた薬の処方、必要に応じた入院などの医療サービスが提供されることで、身体的にも精神的にも健康を取り戻すことができるようになるでしょう(健康状態の改善)

また、「働きたい」あるいは「学業に復帰したい」という希望をもつホームレス(元ホームレスを含む)が就労支援や学業復帰のための支援を受け、実際に就労や学業への復帰を達成した後は、学校へ適応していくことや就労スキルが少しずつでも向上し、維持されることが期待されます。なお、ホームレス(元ホームレスを含む)の人々を対象とした支援で留意しておきたいことは、一度、福祉などの支援(サービス)に繋がったとしても、ホームレス(元ホームレス)の人々自らが、その支援を拒み、支援を継続することが困難になる状況もあるということです。これを「支援からの遁走」といいます。こういったことの理由はいくつか考えられますが、その1つには、「福祉は国のやっかいになること」「国のやっかいになることは恥ずべきこと」など、制度への誤解が生じていることもあると考えられます。こういったことを防ぐためには、ホームレス(元ホームレスを含む)の人々が支援(サービス)を正しく理解し、その利用を気持ちの面で受け入れていく必要があると考えられます(学校への適応・就労スキルの向上及びサービスの受け入れとその定着)

さらに、ホームレス(元ホームレス)の人々が様々なサービスにアクセスし、場合によっては就労や学業への復帰を達成するなかで、ソーシャルワーカーや生活保護のケースワーカー、福祉施設の職員、職場の同僚や上司、学校の友人などとの個別的なかかわりができるかもしれません。また、全ての人がそうではないでしょうが、家族との関係を再構築したいと願う人もいるかもしれません。これらのことは、地域生活を継続していううえでの大きな支えとなるもので、大切なことであると考えられます(親密な人間関係の形成)

一方で、公的な支援機関のみでホームレス(元ホームレスを含む)の人々に対する支援を完結することはできません。これはホームレスに限らず全ての人に言えることですが、人間は常に色々な人の支えを受けながら自分自身の人生を生きています。こういった観点から考えると、地域のなかにホームレス(元ホームレスを含む)の人々を支える様々な人がいて、様々な団体があることが大切になってきます。そこで、地域(地域住民)にとっての中間アウトカムとして「ボランティアの増加」や「NPOなどの支援組織の増加」が期待されます(地域における支援者の増加)

したがって、本評価ツールにおいては、ホームレス(元ホームレスを含む)の「健康状態の改善」及び「学習したことやサービスの維持・定着」「親密な人間関係の形成」、そして「地域における支援者の増加」を中間アウトカムとして設定しました(図表2・3)。

 なお、本評価ツールでは、直接アウトカムとしてホームレス(元ホームレスを含む)の「住居の確保」や「サービスへのアクセス」、ホームレス(元ホームレスを含む)が「教育・就労の機会を得る」ことが達成され、その先の中間アウトカムとしてホームレス(元ホームレスを含む)の「健康状態の改善」や「学習したことやサービスの維持・定着」「親密な人間関係の形成」が達成される仕立てになっています。

 しかし実際には、健康状態の改善が先にみられ、その後に福祉サービスへのアクセスや住居の確保が達成される場合もあると思います。例えば、精神的な症状が悪く、常に被害妄想を訴える人がいたとして、まずは医療機関(精神科病院)にかかり入院治療などを受けることで精神的な症状が軽快し、その後に福祉サービスを利用しはじめ、住居が確保される、といったような場合です。このように成果・効果を達成する順序がロジックモデルに設定したものと逆になる場合なども想定されます。このようなこともあるため、本評価ツールはあくまで、一般的に最も想定される成果・効果の流れを記述しているものであり、ホームレス支援の実践現場の実際と完全には合致し得ないということに留意は必要です。

II.2.3. 最終アウトカム

ホームレス(元ホームレスを含む)に様々な支援を行うことの成果として、最終的に想定されるのが「生活満足感・自己肯定感の向上」及び「本人が望む場所での自立した日常生活」です。

例えば、ホームレス(元ホームレスを含む)の人々が、様々な支援を受け、健康状態も良好で、仕事や学業もうまくいっており、日々の生活のなかで親密な人間関係も築けているような場合、高い「生活満足感」を得ることができ、また、「自分は自立して生活をすることができている」「仕事をすることで誰か(社会)の役にたつことが出来ている」といったような高い「自己肯定感」を得ることができると考えられます。

さらに、これら全ての成果・効果の先に「本人が望む場所での自立した日常生活」を想定することができます。ホームレス(元ホームレスを含む)への支援が目指す最終的な目標は、ただ単に「野宿生活から脱却すること(住居を確保すること)」だけではありません。本評価ツールにおいては、ホームレス(元ホームレスを含む)の人々が、自分らしく、自分が望むように、生き生きと生活を送っていくことを最終的な目標として想定しています。

したがって、本評価ツールにおいては、ホームレス(元ホームレスを含む)の「生活満足感・自己肯定感の向上」及び「本人が望む場所での自立した日常生活」を最終アウトカムとして設定しました(図表2・3)。

(コラム)ホームレス状態の脱却の3段階と支援 (後藤 2013より)

ロジックモデルの例  事業内容:炊き出し

ロジックモデルの例  事業内容:ホームレス緊急一時宿泊施設

(コラム)NPO法人Homedoorの取り組み

(コラム)NPO法人山友会の取り組み

III. アウトカムを測定する方法を決める

「II. ロジックモデルをつくる」で挙げたアウトカムを測定するためには、一般的には図表3・4に示すような指標が有用です。

まず、図表3には、支援対象者であるホームレス(元ホームレスを含む)の変化をみる指標を掲載しました。これらは、ホームレス(元ホームレスを含む)一人ひとりの変化を確認する際に有用です。

図表3:アウトカム指標の一覧(支援対象者個人の変化をみる指標)

次に、図表4には地域の変化をみる指標を掲載しました。これらは、行政が担当する地域がどのように変わったのかなど、地域単位での変化を確認する際に有用です。

図表4:アウトカム指標の一覧(地域の変化をみる指標)

なお、例示されている指標は特定の価値判断を暗黙のうちに前提としている場合があります。評価を実施する目的を明確化した上で、以降に例示されている指標やデータベースで紹介されている測定方法、具体的な質問項目を確認し、自団体が考える価値、アウトカムを測定する上で適切かどうかを判断してください。

クレジット

※所属・肩書きは評価ツール開発当時

 本分野別例は2019年7月に公開された社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ「社会的インパクト評価ツールセット ホームレス支援」の内容をもとにしています。

ホームレス支援評価ツール作成チーム

新藤 健太 群馬医療福祉大学社会福祉学部 助教(チームリーダー)

巣立 佳宏 群馬医療福祉大学社会福祉学部 助教

高橋 浩介 横浜市青葉区生活保護ケースワーカー

藤本 優 大妻女子大学人間関係学部 助教

松本 浩美 NPO法人Homedoor

本ツールセット作成にご協力頂いた方々(敬称略)

油井 和徳 特定非営利活動法人山友会 副代表

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