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【開催レポート】「3団体に聞く!! 現場の試行錯誤と意思決定」(6)[主催チームまとめ]緊急時における社会的インパクト・マネジメントのポイント

社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(以下、SIMI)では、7月1日に、「~緊急時における社会的インパクト・マネジメント~『3団体に聞く!! 現場の試行錯誤と意思決定』」を開催しました。
(開催案内はこちら

本開催レポートは、当日のディスカッションを書き起こし、整理したものです。
全6回に分けてお届けします。

【開催レポート】「3団体に聞く!! 現場の試行錯誤と意思決定」
(1)団体活動紹介「東の食の会」
(2)団体活動紹介「こおりやま子ども若者ネット」
(3)団体活動紹介「サステイナブル・サポート」
(4)パネルディスカッション前編
(5)パネルディスカッション後編
(6)[主催チームまとめ]緊急時における社会的インパクト・マネジメントのポイント


[主催チームまとめ]

緊急時における社会的インパクト・マネジメントのポイント

 イベントでは、緊急支援を実践した3団体の代表にご登壇いただき、新型コロナウィルスの感染拡大が懸念される局面において、現場でどのように活動を開始し、また、継続、展開したのかをお話しいただきました。

 団体の方々がどのような課題に直面し、その中でどのように悩み、考え、活動を進めたのかを議論する中で、緊急時に特に留意する点が事例として明らかになりました。

 本記事は、イベントを主催した社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブの担当チーム(以下、主催チーム)が、イベントでの議論を踏まえて「緊急時における社会的インパクト・マネジメントのポイントは何か?」という整理を試みたものです。まだ議論の途上ではありますが、頻発する自然災害や緊急時の支援の際の参考として、役立てていただければと思います。

※本記事はセミナー主催チームがセミナーでのディスカッションを受けて、緊急時における社会的インパクト・マネジメントを実施する上での、ポイントの整理を試みたものです。 登壇3団体の意図示すものではなく、SIMIの正式見解でもありません。

社会的インパクト・マネジメントとは

 「社会的インパクト・マネジメント」とは、事業運営により得られた事業の社会的な効果や価値に関する情報にもとづいた事業改善や意思決定を行い、社会的インパクトの向上を志向するマネジメントのことです。
 事業者にて、インパクト・マネジメント・サイクルと呼ばれる4つのステージをぐるぐる回し、より良い事業を構築し、実施することを通じて、社会的インパクトをより向上させていきます。
 詳細は、SIMIガイドラインおよび実践ガイド10ステップを参照ください。

第1ステージ:計画(Plan)
第2ステージ:実行(Do)
第3ステージ:効果の把握(Assess)
第4ステージ:報告・活用(Report&Utilize)
要素:組織文化・カバナンス

緊急時における社会的インパクト・マネジメントのポイント

 主催チームとして、以下の3点が最も重要なポイントであると考えました。

 そしてこれらは、緊急時だけでなく平常時にも重要なポイントであることを確認しました。平常時から団体内での共通認識を醸成し、実践していくことが、緊急時においてより強みとなり、迅速な活動につながると考えます。

何のために、誰のどのような困りごとのために活動するのかを、明確にする。
基準やルールを示しつつ、現場に任せ、現場の判断で変えるべきところは変えていく。
平常時から、ミッション・価値観を擦り合わせておく

 これらのポイントを抽出するために、各団体の活動紹介およびパネルディスカッションより、各ステージにおいて意識したこと、振り返って感じることを、以下のように整理しました。開催レポート本文と併せてお読みいただきながら、緊急時における活動のポイントを掴んでいただけましたら幸いです。

※あくまでも、ある特定の緊急時下において、3団体の方が直面したケースから、主催チームが抽出したものになります。正解ではなく、一つの観点を事例から読み解いたものとしてご覧ください。緊急時において特に顕著となるポイントは青字で示しました。

第1ステージ:計画

〇大きな方向性を確認する
・緊急時のように環境が大きく変化する中で、ミッションに立ち戻る
・必要に応じて、ミッションをより包括的・高次元に捉え直すこともある。
・一見ミッションと異なっても、「自分たちはこの状況下で何ができるか?」というフォアキャスティング的発想で思考し、行動することもある。

〇「何のために、誰のために」活動をするのか、明確にする
「誰のためにやるか」「何のためにやるか」ということを明確に共有する
・平常時から「誰の側に立つのか」の認識を合わせておくと良い。

〇ニーズを踏まえて事業を構築する。変更する
・緊急時に即した、情報収集、意見交換、仮説立案、仮説検証、実行可能性調査を行う。
・WhatとHowのどちらか、もしくは両方を変えていく。時にはWho(対象者)も変える。
・対象者にアンケートを取る、コミュニケーションを図るなどして、その状況下におけるニーズを把握する対象者がよりセンシティブになっている可能性に留意する。
・過去の経験から分かっている活動は共有し、検討するが、再度ニーズを確認してから実施する。
平等性・公平性を考慮するより、自分たちが確認したニーズにすぐ対応する場合もある。

〇リスクに対応する
・リスクを多角的に想定し、対応策を検討する。過去の経験から分かっていることを参照し、基準やルールは背景を含めて理解し、対応する。リスクや懸念点について率直に意見し合い、健全に議論しながら対策を立てる
・長期的に発生するリスクを踏まえて早い段階で動く。関係者の認識が揃うまでにはタイムラグがあることもある。環境が明らかになれば、徐々に周囲の意識も変わっていく。

〇緊急時のTips
・身近にあるものや地域との関係性を再構築することが、有効となる場合もある。
緊急時を経て「元に戻す」のではなく、支援のやり方や仕組みをアップデートする。危機を機会に変える

第2ステージ:実行

〇基準を策定する
・組織として守るべき基準・ルールを明確にする。

〇現場で判断する。裁量がある
・一方で、現場で判断すべきところは現場に任せる。現場を見て、必要性や妥当性を確認する。
・「何かをやる」とだけ決めて、動ける人が現場で考えて進める場合もある。現場に裁量があること。

〇状況に応じて変えていく
実際に行動し、不具合を修正していくというプロセスを、ひたすら回す。一度決めた基準やルール、活動内容を、状況を見ながらどんどん変えていく
・何が正しいか、成功するか分からない中であれば、出てきたアイディアをどんどん試す。

第3ステージ:効果の把握

〇成果を確認する
・活動を実施状況、アウトプットをしっかり確認する。緊急時に活動ができたこと自体が素晴らしいことだと認識する。
・指標および目標数値を設定すると、それを達成しなければならない、増やさなければならない、と事業スタッフは意識することになる。その内容は受益者本位のものかどうか、事業者・資金提供者本位になっていないか検討する

〇事業を振り返る
・活動後に、振り返りを実施し、ニーズに対して、できたこと・できなかったことを整理する。
・把握したニーズに全て応えることが難しい場合もある。そのことに認識する。
・目指すインパクトが大きい、目の前の課題が巨大である場合、成果に対して、焦燥感を感じる場合もある。そのことに留意する。

第4ステージ:報告・活用

〇発信する。声をあげる、伝える
・緊急時に周辺化しやすい対象者の声を丁寧に聞く。団体が代弁するのではなく、直接社会へ届ける。
既存の制度や仕組みに合わせて動きつつ、違和感に向き合う。声を上げる。一段落したら検証する

〇今後へ向けて準備する
・今は表面化していなくても、今後数ヶ月内に生じることが想定される課題に向けて、準備する。
・緊急時が過ぎた後に平常時の活動への影響が残る場合もある。事業の成果に照らして、活動の優先順位を付けて判断していく。

〇未来へ向けて、学びを整理し、新たな機会とする
・今回の緊急時に学んだこと踏まえ、次回の緊急時へ向けて、平常時に準備しておく。
・緊急時に併発する多くの社会課題に対して向き合い、自団体のミッションを見直しながら、目指すインパクトを再度言語化する。
・事業のフェーズは変化していく。現在のフェーズにおける活動を続けるだけでなく、フェーズの変化を感じ取り、動かして行く。
新たなアクターと連携することで、今まで実現できなかったサービスを形にする、届ける
・緊急時の経験を学びへ変えて、社会へ、世界へ、広く伝えていく。

■組織文化・ガバナンス

〇ミッション
・緊急時における活動では、ミッションの再解釈を行う場合もある。
・同時に、今までの「支援される側」「支援する側」を一気に逆転させることもある。

〇価値観の共有
平常時から自分たちが誰の側に立つのかをよく議論しておくことで、価値観、目線に共通認識が育まれ、緊急時にもスムーズに意思疎通を図ることができ、意思決定が早くなる。
・共通言語があり価値観の共有がされていると、対話がスムーズに進む。
・自分たちの位置づけを踏まえ、行動する。時には、先陣を切って批判を恐れずにやっていくこともある。

〇コミュニケーションを図る
ステークホルダー(特に組織のスタッフ)の意識を統一する。同じ方向を見て、乗り越えていく。
・リスクと事業収益の継続、安全面の確保と事業の価値提供のバランスを判断し、スタッフに理解してもらう。
・危機の経験をしていることでマインドセットが異なる。アクションを起こすまでのスピードが早い傾向がある。事業スタッフの経験を踏まえてコミュニケーションを図る。

〇仮説を立て、どんどん修正する
・活動が次の何に繋がるか、目指す社会と活動の目的に繋がるかを考え、即席でロジックモデルを作り、どんどん修正しながら進める

■事業運営のリソース

〇資金(カネ)
資金の余裕があることで、事業の継続や安心感につながる。新しいチャレンジや試行錯誤を進める余裕が出る。緊急時には特に余裕を持った資金があることが重要。
・最悪のケースを考え、早めに資金調達に動く。
・事業収益を非収益事業に回すなど、自社のファイナス構造を意識し、工夫する。
・自団体だけでなく、ステークホルダーのキャッシュフローにも留意し、連携して動く。

〇事業スタッフ(ヒト)
緊急時の負荷やストレスを鑑み、事業スタッフのバーンアウトに留意する
・先の見えない不安の中で、周囲から思わぬ非難を受けることもあることに留意する。

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 以上です。

 緊急時の社会的インパクト・マネジメントについては、まだ議論の途上ではありますが、団体が直面した事例の一つとして、参考にしていただければと思います。事前に緊急時にどのようなことが発生するか、ポイントとなるかを知っておくことで、いざその状況に直面した際に、配慮しつつ対応できるのではないかと考えています。

 これらの整理が、少しでも皆さまの活動の一助になれば幸いです。 今後もイベントを通じて、緊急時および平常時における社会的インパクト・マネジメントについて、皆さまと学びを深めていけたらと考えています。

(おわり)


【開催レポート】「3団体に聞く!! 現場の試行錯誤と意思決定」
(1)団体活動紹介「東の食の会」
(2)団体活動紹介「こおりやま子ども若者ネット」
(3)団体活動紹介「サステイナブル・サポート」
(4)パネルディスカッション前編
(5)パネルディスカッション後編
(6)[主催チームまとめ]緊急時における社会的インパクト・マネジメントのポイント

社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI)
緊急時における社会的インパクト・マネジメントを検討するタスクフォース
メンバー:山中資久、高木麻美、大沢望、川合朋音、高山大祐、土岐三輪

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